推計でターゲティング力を高め、マーケティング活動全体のROIを改善する

コラム
対談連載

現在のマーケティング活動の競争軸は、「顧客の声」とも言えるデータを活用し、より魅力的かつ統合的なブランド体験を提供するという、質の観点に移り変わりつつあります。企業視点のスペック訴求ではなく、顧客視点に立った魅力的な体験価値こそがブランドの競争力の源泉となる時代、企業はいかにして統合的で魅力的な体験価値を創造、提供すればよいのでしょうか。

そこでは従来の広告をはじめとするマーケティング・コミュニケーションにとどまらない広義のマーケティングの企画と実行が必要となります。媒体社側でマーケティングを担う人は、そしてマーケティング活動を支援するパートナー企業は、競争軸の変化にどう向き合っていけばよいのか。連載第2回は、サイカの平尾喜昭氏と講談社の松村吏司氏が議論しました。

Cookieレス時代に注目を集めるコンテキストマッチ広告と統計分析

昨今の企業のマーケティング活動を取り巻く課題をどのように見ていますか。

松村:3rd Party Cookie規制によ り、ネット広告におけるリターゲ ティングがこれまでのようには実行 できなくなりました。デジタル上で の対象顧客へのリーチに悩みを持た れている広告主が多いと感じます。

平尾:コロナ禍でマーケティング投資に向けられる視線がシビアになり、これまで以上にROIを重視する機運が生まれていると思います。加えて松村さんが指摘されたようなグローバルでの個人情報保護の機運に、さらには国内でも個人情報保護法が改正され、投資効率は求められながらも、ネット広告においては従来の手法が通用しなくなりつつあります。そのような環境の中で、注目されているのがコンテキストマッチ広告と統計学的なアプローチによる広告の評価だと思います。前者は取得した情報から推計し、個人情報を使わずとも、ユーザーを取り巻く文脈を理解したうえで紐づけ、最適な広告配信をすることでターゲティングの精度を維持します。後者は推計ベースのアプローチで各種広告のROIを見る手法なので、個人のプライバシーを侵害するようなデータの利活用がなくても、マーケティング活動の効率を高めるヒントを提供するものだと考えます。

広告主企業が抱える課題をどう捉えていますか。

平尾:「施策評価指標の統一化」です。今までは施策単位で異なるKPIを追っていることが一般的でした。例えばネット広告担当はCPA、テレビCM担当は好意度や認知度を追っているというサイロ化された状態でした。結果的にそれぞれのKPIを個別に最大化させても、マーケティング活動全体の投資対効果が最大化できているか分からない状態になっていました。ですから施策や部門を超えて、KGIに対しての貢献度をしっかり測れるようにしようという取り組みは、いろいろな形で加速度的に進んでいると感じています。

松村:「この施策によってどのくらいのROIが見込めるのか」をどうにかして測りたいという声を多く聞くようになりました。講談社の例で言うと、今までは当社の広告営業部門とクライアント側の宣伝部は、どういうクリエイティブをつくって、どういう形でプロモーションをしていくかという話し合いをして終わりだったものが、最近ではどこまでROIが見込めるのかまで打ち合わせをしています。

講談社はアセットを活用した広告配信・クリエイティブ・分析サービスを提供するOTAKADを2019年にリリースしました

松村:OTAKADとは当社が保有する11メディアのデータを活用してターゲティング広告を配信でき、配信結果から顧客理解を促進できるデジタルマーケティングサービスです。記事のアクセス履歴からユーザーの興味関心を抽出し、読者の熱量を解析しながらリアルタイムに最適な広告配信が実現できます。

平尾:今まで貯めた情報や、各種出稿の情報に対して、個人を追うのではなくて、蓄積されたデータから類推していくという手法ですね。我々もOTAKADのデータは気になります。本当に狙うべきセグメントは何か。OTAKADで精緻化して実験した上で、確証に変えた後、全体最適化のために他の施策にフィードバックするというのは、近いうちに実現可能な世界だと感じています。

松村:ユーザーに対してはプライバシーポリシーに「こういう形でデータを取っています」と掲載していますが、今のところ大きな反応はないので受け入れていただけているかなと思っています。

平尾:OTAKADのような推計的な 技術は、かつてのように個人を追っ ているわけではないので、精度が落 ちると誤解している方がいらっしゃ いますが、実態は逆だと思います。 3rd Party Cookieデータの取得に よって把握できる個人の動きはラン ダムで、説明がつかないものが多く あったり、すでに購入した商品の閲 覧履歴から同一商品の広告が表示さ れ続けたりすることもあるため、過 去の蓄積データを理解して、そこか ら推計していく方が、精度は上がる はずです。

講談社のようなメディアや、サイカのようなデータ分析企業は、広告主企業に対してどのようなサポートをしていけると思いますか。

平尾:「統一指標を持つ」作業をお手伝いする点です。自社内で行うと部門間にしこりが残る可能性もあるので、我々のような第三者が客観的に分析結果を示すことで、統一指標を主語にした成果最大化のための部門間のコラボレーションも実現しやすい風土がつくれると思います。

松村:我々のようなメディア企業は「この人が今、こういう記事を読んでいる、こういう動きをしている」という点を見ています。また、広告配信の結果から「こういう人にはこういう訴求の方が興味を持っていただけるだろう」という示唆を提供しています。

立場が違うプレイヤーが手を取り合うと統合マーケティングにつながりますね。

松村:連携は本当に大事だと思います。我々も自分たちだけで全てできるとは思っていません。実はよくあるケースなのですが、クライアントに出稿していただいた結果「コンバージョンが生まれません」と指摘されることがあります。もちろん指標をコンバージョンに置くのは大事ですが、全てのコンバージョンがディスプレイ広告や動画広告で得られるものではありません。「この商品、YouTubeで見たな」などという記憶が、結果として店舗での購入につながったこともあるはずです。そのような一連のデータが見られるように、サイカと連携できると、こういった結果もつなげて見られるかもしれませんので、とても興味があります。

平尾:同感です。コンバージョンだけでなく、アシストする効果も評価されるべきです。ラストタッチによらない適正な評価が当たり前にならないといけないと考えています。

松村:また、事前にサイカのデータ分析により「直接のコンバージョンはなくとも、こういう記事を読んでいる人たちが最終的に購入しているので、広告を出してみてはどうか」とわかると、我々としてもそういう記事にアクセスした人たちにターゲティングして配信できるようになります。このような連携ができると、より精緻な分析となり、マーケティングの全体最適につながりやすくなるのだろうなと思います。

平尾:期せずして連携の絵が見えましたね。ぜひ、今後も新たな可能性に向けて議論させてほしいと思います。

[データで導くマーケティングの全体最適化]連載

月刊『宣伝会議』2022年9月号に掲載された記事です。

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